高畑耕治の詩


星母子、水球線上のアリア



どうしてなつかしく
好きなのか
わかりました
絵のない絵本の夜空の優しい語り手
そうです月はひさしぶりに
東海の小島の廃都の私にも
話しかけてくれて


☽ あなたにも聞こえますか
 ほらいまあのこえ
 わたしをつつむ星々とおなじほど
 いちめんにあなたの
 星の地でまたたくこえ

 ♡ 生まれていいの?
   あたし
   ぼく
   生まれる
   きがする
   いい?

☽ わたしがくるりと
 やみとひかりを
 まわりめぐるいま
 こどうにまもられ
 まるまりまどろみ
 ときをまっている
 あの星母子のこえ

 ♡ 生まれていい?
   生まれるよ?

☽ こねこもこいぬも
 こやぎもこうしも
 たまごのことりも
 うみがめのこも

☽ まだとじたままの
 まぶたにくるまれた
 ひとみに
 おそれとふあんと
 あいをいっぱいにふるわせて
 やがて満ちようとするわたしみあげ
 たずねているのです

☽ 愛おしい
 このこたちにわたし
 歌います

 ♪ あなたをつつむ
   おなかのうみの
   なみ
   わたしもよぞらの
   うみにうまれた

 ♫ 生まれていいの?
   あちらこちらの太陽だれも
   こたえてくれなかったけれど
   あなたとわたしの
   おかあさん
   あおいうみはゆれるまま
   ゆれながらただけんめいに
   わたしを
   おもってくれたの

 ♪ 生まれて
   おいで

 ♫ あなたを
   ただただおもい
   まもっているいのち
   おかあさんの
   満ちてくる
   うみ

 ♫ わたしも
   なみにゆらら
   みまもる

 ♪ おいで
   あなたの
   おかおをみせて
   あなたの
   なきごえを
   きかせて

☽ なみだでしかない
 いのちさえ
 愛しく
 おもえる
 いのち

☽ くらやみにうかびまわり
 星母子にてらされ
 わけあたえられた
 わずかなひかりのかけらをわたし
 あなたに
 てわたしたいと
 みまもっています 」



どうして月のひかり
コロナのこんな世にも
なつかしいのか
あす満ちるという
真冬の夜に
しりました

お月さまの微笑みは
おかあさんの肌いろ


  わ
   ら
   か

  な




*読み 星母子:ほしぼし。
 または、聖母子、せいぼし、とも。
水球: すいきゅう。
地: ち。愛しく: いとしく。

☽ : 月のひかりの言葉です。
♡ : ハートです。
♪ ♫ : 月のアリア、歌声です。
〇: 満月です。

*参照
G線上のアリア: バッハ
絵のない絵本: アンデルセン

東海の小島の:
東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる
石川啄木( たくぼく )



「 星母子、水球線上のアリア 」( 了 )

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