高畑耕治の詩


ヴァイオリンこおろぎ



むかし野の花かげで
恋うた奏でていたのはわたしです
あの日を
あなたはおぼえていますか?

( ふるえなきだす …
 愛しいヴァイオリンこおろぎ … )

えいえんにむかい
木の肌のおく深く
やすらいだわたしを

魂のねむりからゆすりおこしてくれたのは

あたたかなそのまなざしと
かろやかに舞うゆびさきのひと
あなたでした

数えきれないほど
めぐりまわってきた
メロディーの
メリーゴーランド
なんどもくりかえし奏で
ゆびでおぼえつくした音符
愛おしく密やかにふたり
駆けあがってゆく
ネジバナらせん音階

なつかしいひと
あなたと
こころとからだかさね
悲しく澄みきり
響いてゆきたい
この幻の瞬間

すすむにつれ高まり
終曲の
美の
極限へ激しく
恋い焦がれつつ

終わってほしくない
うしないたくないと
おののく
わたし
いちどかぎりの
いのちの
音楽
ふるえ鳴く
ヴァイオリンこおろぎ
ですから

終局の静寂の果てに
声もこころも
脈拍も鼓動もなんにもない
音のないねはん
ニルヴァーナ

なつかしいひと
まどろむ魂の楽器の
羽根を
いちどだけの
いのちの
音楽
最終楽章の果てへ
おそれず
なきつくせるように
愛してください

愛しいひと
ゆびとまなざしで
優しく抱き
かき鳴らし
楽器のわたしを
あなたへの
永遠の


音楽に
してください



 ∞ エコー


せんりつりずむを
おりあげ
おりあげられ
らせんに
むすばれ

けおとされた地の
深み重み苦みから

ひろわれ
すくわれ
すくいあげられ

かろやかに
うすらぎ
やわらぎ

しきさいも
おとも
なにもかも
うしない

やすらぎの
しおさい


ゆきましょう




*ふりがな 愛しい:かなしい。愛しい:いとしい。苦み: にがみ。∞ : インフィニティ。無限。



「 ヴァイオリンこおろぎ 」( 了 )

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