高畑耕治の詩


白い小鳥とイルカに結ばれて



 悪の猿の惑星


悪政は教科書の歴史書の文字のインクに閉じられているのではなく眼と耳と身を
黒い顔料に汚され読まされる世の今の連続だと知る

けれどもそれでも悪は悪だと
転がりながらも伝えることだけがたぶん時を書きとどめてゆくこと
人の暗黒を薄めてゆく願い無色に焦がれる心の愛の証だ

どんな悪政の今にいても

高く遠くうすらかな青空に羽ばたく白い小鳥のように
かすむ遥か水平線のむこうへ跳ね泳いでゆく白いイルカのように

心無色でありたいまま飛翔し遊泳してゆくだけだこの
惑星のうえに好きな人も生きものたちもともにいる今はあの

流れ星のようにきれいにはなれないけれど



 ヘイトと、願いと祈りと


喜びも楽しさも満ちてるよハッピーじゃないかとご満悦でヘイト
わめきちらしてる愛国公共民放TV
好きじゃないからどうでもいいけど

願いも祈りも静かに
あるのよというあなたの言葉
痛い

見えない聞こえない感じとれないだけだろうか
鈍くて

あればいいのに
空にも海にも地にも街にも

人の心にも生きものへの眼差しにも
あればいいのにもっと

感じられるように今



 なみだ


なみだなみだなみ だな みだ な みだ なみ だ な み  だ  な  み  だ
下方へ無限エコーする
連なり光り落ちてゆく

ゆきさき見失うまま静もり
         止まっているのか
       浮かんでいるのか
     泳いでいるのか
  舞ってゆくのか

雪のように
  羽毛のように
わたあめ雲の
 銀河のように

美しく
宇宙の闇に散る

( むやみやたらに泣いてるわけじゃない )

たのむから静かにしておくれ
さよならさえいえず
ゆきわかれ
させられた大切な
あの子の
あのひとの
声といのちの
旋律と
離ればなれの
和音さがしてさまよい
ふたたびめぐりあえるその日までループしてでも
滴り奏で落ちてゆきたいだけ

なみだ涙銀河の波も海も絶え果てる闇のその果ての
永遠へ
無限エコーする



 ひと知れず


幼気な子どもが
のみこむことも止めることもできない悲しいものを
こぼれる雫の壊れるかたちでしか
伝えられない苦しいものを
流しつづけている無惨な今でしかないけれど

手を握り抱きかかえ守ろうとする人が
震災のあの地にも爆撃の街にも今も
ひと知れず
いる

願うだけでしかなくても

わたしも



 闇を光の


いつの時代にも十字軍

あの白い小鳥が
あの白いイルカが

ミサイルに破壊されている街の人間の
嘆きと悲しみの大陸のそばの
放射能にふかく汚染されていく
海と空に
まばゆく描いているのは

進んでゆく瞳に宿し
破壊しあう軍の国境を
消して
悲しみの地も血も痛みも悼みも
闇を光の祈りに
結んでゆくのは

あの子のあのひとのあの日の
微笑み

なつかしい七色の
かぎりなく透明無色の
たわみやわらかに優しく今にも見えなくなりそうな
消えることのない




*ふりがな 汚され: よごされ。幼気な: いたいけな。七色: なないろ。
*本歌
 をちこちにながめやかはすうかひ舟やみを光のかがり火のかげ 藤原定家。
 闇を光の: 闇が光であるその
*参照・リンク 愛( かな )しい詩歌・高畑耕治の詩想
 詩表現の可能性。闇を光の。赤羽淑『藤原定家の歌風』から。



「 白い小鳥とイルカに結ばれて 」( 了 )

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