高畑耕治の詩


秋万葉

  みづ枝さす 秋の黄葉 まき持てる 小鈴もゆらに たわや女に われはあれども 引きよぢて 峯もとををに ふさ手折り われは持ちてゆく 君がかざしに

  ひとりのみ見れば恋染み神なびの山の黄葉手折り来り君

      万葉集 巻第十三 作者未詳 長歌(後半部)と反歌


秋の葉木もれ日こんなに優しい
なんのせい?

気まぐれ虹いろ塗り跳ねあそぶ
葉精のせい

みどり黄みどり黄いろ紫
朱いろこげ茶くれない
まばゆいまんだら
染みてかなしい
なんのせい?

かろやかな秋風ひらら
ひるがえり逃げさってゆく
きみのおもかげのせい

かなかな鈴虫こおろぎのなきがらの
無言歌のせい
すすきの穂も愛の記憶にふるる

秋の旋律
静ひつ
なんのせい?

山鳩枯れ葉ふむあし音のせい
おちてはずんでころがり
かくれてしまうはずかしがりやの
どんぐりのせい

のらねこ子ねこの瞳も
そっくり木の実
みつけあいみつめあい
ころろ

秋いろ野原おだやか
なんのせい?

山すそまでお母さんと赤んぼの
肌いろあからむせい
お空もやわらか
夕やけもみじ



 反歌一葉


くるしくつらいのは
ぼくのせいでもあるけれど
あんまりおかしな世の中のせい

さみしくかなしいのは秋いろのせい
きっとそのせい



 反歌二葉


虹いろもみじに
こころも小鈴
ゆらら枝葉にひき結び

きれいな髪飾りを
きみに




*ふりがな 秋万葉: あきまんよう。小鈴: こすず。葉精: ようせい。木の葉: このは。木の実: このみ。一葉:いちよう。二葉:によう。
*引用歌詠み
みずえさす あきのもみじば まきもてる こすずもゆらに たわやめに われはあれども ひきよじて みねもとををに ふさたおり われはもちてゆく きみがかざしに ひとりのみみればこいしみかむなびのやまのもみじばたおりけりきみ
*参照 「 新版 万葉集 三 」 伊藤博訳注・角川ソフィア文庫。「 新校注 萬葉集 」井手至、毛利正守・和泉書院。



「 秋万葉 」( 了 )

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