高畑耕治の詩


こねこマリアの
 レット・イット・ビー




真夜中の枕もと耳もと
寝息まじり鳴き声まじりに
ささやきがきこえた
レット・イット・ビーのマリアさまの
訪れのようにしずかに
こねこおまえはみゃおにゃお
頬をなめ話してくれたね

「 わたし探しているの
 空を

 ミサイルにミサイルを
 銃に銃を
 軍隊に軍隊を
 核に核を
 もっともらしく命じて
 競いあい準備したなら

 言いがかりで
 戦いはじめるのは
 カッコよくみえて
 カッコよく宣伝されて
 正義とうたわれて
 とってもかんたんになるけれど

 戦いがはじまれば
 銃をもつ手のない
 こねことことりとあかんぼと
 おさないおんなのこと
 おかあさんとこどもが
 とってもかんたんに
 殺されるだけ

 地平線の国境線の
 こちらのまちでも
 あちらのまちでも

 勇敢に
 戦争をはじめる
 カッコいいエライひとは
 ミサイルのこないところに
 銃のとどかないところに
 お互い上手に隠れて
 正義のためお国のため
 オレさまのために
 殺しあえと
 命じるだけ

 痛み傷つき苦しみ悲しみ
 殺されるのは
 銃をもてない
 こねことことりとあかんぼと
 おさないおんなのこと
 おかあさんからとりあげられた
 兵隊さんだけ

 お金持ちはうまく逃れるのに
 貧しさに追いこまれ
 兵役に閉じこめられ
 殺したくない殺さないただそれだけで
 臆病な反社会的分子だ
 殺人忌避の罪だ人非人だと
 拷問され焼きゴテで烙印おされ

 ねこだましねこいらずの
 勇敢な優生人種むけの
 カシコすぎる社会に
 いのちはすめないから

 わたしみゃおにゃお
 みつけにゆくの
 ミサイルのない
 戦闘機のない
 放射能に染まらない

 ねこ雲やわらかな
 空を 」

まだ夜明けまえ
枕もとのこねこは
とても早起き
もうでかけたようでした

愛しい声音みゃおにゃお
暗闇に響くと
お月さまお星さまも
マリアさまの慈しみの
レット・イット・ビー
美しい静音

明らみはじめる
地平線
水平線

だれにもけがすことなんてできない
だれもがみあげることゆるされた
空に



明けのおめめの明星

灯り

みちびかれるがまま
こねこマリアさまぼくもあなたと
祈り
旅します
みゃおにゃおあるがままなるがまま




*ふりがな 声音: せいおん。愛しく: かなしく。
* 参照 レット・イット・ビー: ビートルズの曲名。( あるがままなるがまま )。



「 こねこマリアのレット・イット・ビー 」( 了 )

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