高畑耕治詩集『愛(かな)


花火の死に方

「ぼくは花火になりたいと思いました」
暑中見舞に 花火師を
花火と書きそこねてから
ずいぶんきみはぼくをからかった
昨夜おおきな音が どん どん
響くので窓をあけると
遠くで花火が いくつもいくつも
咲いていた
あの夏のきみの笑顔が開いて
散った

話しただろうか?
きみもぼくも大好きな
花火を祖母は嫌いだった
だだをこね むりやりつれていってもらった
村の花火大会で
祖母の涙をはじめてみた
こどものぼくは
おばあちゃんは
あのおおきな音がこわいんだと思った
少しおおきくなってからは
美しさに感動したんだと思っていた

去年の夏
朝鮮半島からきている
キムさんを花火にさそうと
彼女も花火が嫌いだという
どうして?
いたいから
え?
あなた、いたみがわからない
え?
あの音をきくと
空爆で死んだ父を思いだすの

おばあちゃん
ぼくはあなたのいたみがわかりませんでした
戦闘機で自爆したのか撃ちおとされたのかさえ
わからないおじいちゃんのいたみが
戦争で殺されたひとたちのいたみが
わかりませんでした 苦しみが
わかりませんでした

それでも夏空に花火が打ちあげられると
ぼくは見にいきたくてたまらない
あんなに美しく散ってゆくのに
あんまり静かでかなしい
打ちあげられるとき 一度だけ
おおきなうぶ声をあげるけれど
夜空では
ぱらぱらとちいさな声で
みずから音をけしさるように
はらはらと
時間をとめてきえてしまう
死んでいったひとの声のない表情のように

花火もいたいだろうか?
ぼくはいま花火になりたいと思っています
おばあちゃんにもキムさんにもいえないけれど
きみだけは笑ってくれる?



「 花火の死に方 」( 了 )

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