高畑耕治詩集『愛(かな)


雪野原

あのころ都市に星はもうふらなかった
ふたりぬけだした冬のロッジにふる
雨はいつかあられにかわり
さらさら髪におどり
ちいさな女の子のような
きみのかおは
あじのもとみたい
って笑った
窓ガラスに


ゆびさきでそっとふれきみは
お星みたい
ってひかった
目をとじたぼくのからだに
ながいあいだわすれていた
ながれ星がながれた
きみのひかるひとみにながれる
ながれ星になりたい
ながれ星 雪になれ
わたしをあらいながせ
って祈った

あのころ都市に雪はもうふらなかった
白いもやのなか手をとりあって
歩いたね はなればなれにならないよう
晴れた日でもふたまた道はかならずまちがう
方向おんちのふたりだから
道しるべはいらない
ゆきさきは
たどりつくところ きっと
雪がふりつもっていて
星がふりみだれていて

ここはどこ?
まよいながら不安でも 笑って
こえにださなければ
大切なもの 雪は
とけてしまう
だきよせなければ 星は
こわれてゆく きみを
まもりたいなら
こえを
ただひとこと 雪が
好き 星が
好き きみが

あれからぼくのこころに星はもうふらない
はなれてゆききみは
いまわたしはまっしろなの
なにもみえない
っていった
あいかわらずぼくはまっくらだけど
きみのことばを思いだすたび
あわくやわらかな
ひかりをかんじたりする

こころがまっしろなのは
星がふりみだれているから
雪がふりみだれているから

星は宇宙にふる雪
雪は地球にふる星
ふるえながらふたりもふってゆく

あたりいちめん
星野原
あたりいちめん
雪野原



「 雪野原 」( 了 )

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