高畑耕治詩集『愛(かな)


雨あがり

お天気ほどあてにならないものはない
なにもかもすいこまれそうな空だから
どこにも雲のみえない青空だから
かすんでゆく目はうたいます
 わたしのこころどこいった
 逃げたそれともうらぎった

小道であそぶ子供たち
ほおふくらませ息を ふう
のぼってゆくゆくしゃぼん玉さん
こわれないこころってある?

かなしくひかり風にゆれ
 おとになろうよ ふくらんでわれ
 みえない風になろうよ
 空をながれるおとになろうよ

どこにもとどかずきえてしまったしゃぼん玉
どこからか風にかわってうたってる
 あのひとはしあわせ なら
 あなたはしあわせ ほら
 あのひとは雲
 あなたは 雲

なんにもなかった青空だけど
どこから雲はやってきたの?
ならんでながれ まじわりわかれ きえてうまれて
うたってる
 自由じゃない さびしいけどね
 だれでも愛せる
 いつでも愛せる
 自由じゃない さびしいけれどね

こころほどあてにならないものはない
あんまり突然ふってきたから
楽しくなってにくらしくって
雨にうたれて歩いたけれど
あんまりつよくていたいから
雑木林で 雨やどり

葉むらからこぼれおちる
雨もり? 木洩れ日みたいな
雨つぶさん
どこからきたの?
雲からきたの?
土にあいにきたの? 雨つぶさん
出あうのとわかれるのとどっちがしあわせ?
 愛せないよりどっちもしあわせ
   ぽつぽつぽろ
逃げるのとおいかけるのとどっちがしあわせ?
 とまっているよりどっちもしあわせ
   ぷつぷつぷる

ぬれた木の肌は汗ばんだあのひとの肌のようにあたたかく
みどりの草たち 風に生き生き
  からだをくねらせうたいます
 さびしくなったらおもいっきり
 てのひらでかおをたたいてごらん いたいけど
 からだのこえがきこえるよ

かくれた土もまけずにうたい
 かなしくなったらおもいっきり
 はだしでぼくをふんでごらん いたいけど
 からだのこえがきこえるよ

雨つぶさんも唱和して
 ぽつぽつぽろ
 ながれるなみだがきこえるよ

お天気ほどあてにならないものはない
からっと晴れた雨あがり
こううんきをかたかたならした満足げなおじさん
ふたりともびしょむれ 顔もくしゃくしゃ笑います

田んぼの土がほりかえされてかおってる
雨つぶと土 まじわりながらひかりあってうたってる
みみずさん顔をのぞかせ
まぶしげに目のないからだを
くねらせながら空をみあげ
 かたいものなどなんにもないよ
 くずれてこわれてうつってきえては
 くねくねくるっ くねくねくるっ
 みんなほんとはやわらかなんだ あっ

舞いおりてきたかわいいことりのくちばしに
するっとすわれてきえちゃった ちいさなからだ
ちょんちょんはねて 突然とびたち
くるくるまわり みえない風をすべりおり
首をかしげてめくばせし
 ちゅんちゅんちゅん
 わたしはことり あなたはみみず
 みみずのあなたはもうことり
 ことりのわたしはもうみみず
 心がわり 雨あがり
 とびたくなったらとりになれ

花も雨にぬれて
あか
花はひかりにもえて
むらさき
花はみどりにはえて
きいろ みずいろ 愛のいろ
花は風にゆれて

 好きになったら生きていけるよ
 好かれなくても
 きらわれても
 好きになったら生きていけるよ

 わたしもむかし ひとでした
 花を愛した ひとでした
 だからこころは花に生まれた

 あなたはいまも ひとが好き
 好きになったらわたしはひらく

 あなたはむかし 花でした
 ひとを愛した 花でした



「 雨あがり 」( 了 )

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