まだらもようの樹皮にはりつき
短い生涯の声を夏のひかる風にひびかせる
せみ
風にさやぐ木の葉のような
はねをひかりに透かせ
ひとり
おしりを上下にふるわせ
よいしれながらけんめいに
なぜ鳴くの?
かなかなかなかな
かなしい声で
なぜ泣くの?
みんみんぜみがみんな死んじゃったからかな かなかな
木の皮が好きだからかな かなかな
ぬぎすてた殻を忘れてしまったからかな かなかな
まだ愛しているからかなかなかなかな
ふいに木から木へとびうつり
思いおこす時もなく もう
目をやることもない殻に
瞬間 影をかすめ
かたわらをとびさる日暮れ
かすむ雲にすいこまれてゆく
古くなった樹皮はやがてはがれおち
土にすいよせられ 昔
おなじ背丈だった根もとの
野草たちのてのひらにまねきよせられ
だかれてねむる
けんめいに泣いた愛しみもいつかはがれおちる日に
木にはりつく殻だけが
かなしく風にひかり
草むらに
雲からおちて
土にかえった
かなかな