高畑耕治詩集『愛(かな)


かなかな

まだらもようの樹皮にはりつき
短い生涯の声を夏のひかる風にひびかせる
せみ
風にさやぐ木の葉のような
はねをひかりに透かせ
ひとり
おしりを上下にふるわせ
よいしれながらけんめいに
なぜ鳴くの?
かなかなかなかな
かなしい声で
なぜ泣くの?

みんみんぜみがみんな死んじゃったからかな かなかな
木の皮が好きだからかな かなかな
ぬぎすてた殻を忘れてしまったからかな かなかな
まだ愛しているからかなかなかなかな

ふいに木から木へとびうつり
思いおこす時もなく もう
目をやることもない殻に
瞬間 影をかすめ
かたわらをとびさる日暮れ
かすむ雲にすいこまれてゆく

古くなった樹皮はやがてはがれおち
土にすいよせられ 昔
おなじ背丈だった根もとの
野草たちのてのひらにまねきよせられ
だかれてねむる
けんめいに泣いた愛しみもいつかはがれおちる日に
木にはりつく殻だけが
かなしく風にひかり
草むらに
雲からおちて
土にかえった
かなかな



「 かなかな 」( 了 )

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