高畑耕治詩集『愛(かな)


好きやねん

おかあさん、
ぼくはいま首都東京のビジネスマンとして、
 ( ほんまは大阪のチンピラみたいやけど )
日々研鑽を積み、成果を着々と上げつつあります。
 ( さぼりながらあほなことばっかりやってる )
上司の信任を得、地位と名声を得、財産を得、
 ( なんもあらへん、ひらひらのすっからかん )
仕事に生きがいを見出し、
 ( いつもやめたい )
国家のために尽くします。
 ( おくにはきらいや )
これからも経済大国の一員として、
 ( 河内のおっさんやから )
ばりばり競争を勝ち抜いていきますよ。
 ( 酒のんでねよか、人けおとすよりましや )
志を遂げるまで弱音は決して漏らしません、
安心してください、いたって健康です。
 ( わるいけどおれはもうあかん、ばててもた )
目標は高いけれど日々充実しています。
 ( なんもするきにならん、なんもでけへん )

おかあさん、
ぼくの恋愛について心配されていましたね。
 ( なんも心配せんでええよ )
若気のいたりで海外出張のおり交際した異国の女性とは、
あなたの助言どおり別れました。
 ( 人間に東京も大阪も国の区別もなんもあらへん )
血縁のことも考えず、
 ( 雑種は好きや、みんな雑種やんけ )
あのときはどうも理性的でなかったと反省しきりです。
 ( やりぬけへんかったおれはげすや )
もう今は知性に生きる自分を取戻しました。
 ( 情をなくしたらしまいやんけ )
今思えば一時の戯れでした。
今後は海外のあわれな人々に仕事で貢献したいと思います。
 ( せめてともだちつづけて )

おかあさん、
先日お話ししましたように今、
知性的で魅惑的な女性と、
 ( あほやけどきどらんおんなと )
もちろん結婚を前提にした、
 ( いっしょに棲んで )
仕事に支障のないほどよい交際を重ねています。
 ( 朝から晩まで抱きおうてる )
もちろん彼女は東京の富裕な家庭に育ち、
 ( 地方の農民の娘や )
働く必要などないのですが
 ( 働かなくわれへん )
現代女性らしく仕事を通して社会に積極的に参加しています。
 ( ソープで働いてる )
ぼくの目から見ても、社会的評価を得た、
立派な仕事だと思います。
 ( しごとにりっぱもくそもあるか、
 農民のどこがわるいねん、
 あんなつろうてとおといしごとがあるか?
 水商売のどこがわるいねん、
 こころすくうしごとほかにあるか?
 からだはって生きてなにがわるいんじゃ )
結婚すればやめさせます。
彼女も主婦業に専念すると言ってくれます。
 ( しばりおうたらしまいじゃ )
ぼくは正義・真実を求めつづける彼女の知性を愛し、
 ( うそですくわれたいこころってあるねん )
理解しあえる唯一の女性だと確信しています。
 ( おんなはようわからん、
 でもうそでも愛されたいこころってあるねん )
写真同封します。今度はあなたの目に適うと違いないと、
 ( ぶすやけどほんまに好きや、ほれてもた )
確信しています。
 ( わかってくれへんやろなあ、でもな

おかあさん、
あんまりうもういかへんけど、なにゆわれても
好きやねん。
ひとを好きになれへんかったら、
愛せへんかったら、
ほかになにがあるねん。
あんまりほれてもたから、どうにもならん、
わややけど、
おれはまけへん、
なにがあってもまけへん。
なにゆわれてもまけへん。
愛してるから まけへん。 <

そやけどやわなこころはみせたらあかんな。
ほんまにほれたあいつにしか、
やわなこころはみせへん。
おかあさんにはみせたいけど、
やめとくわ。
おかあさん、おれは
愛してる。


「 好きやねん 」( 了 )

TOPページへ

アンソロジー@
愛・ひとに 目次へ

詩集『愛(かな)
目次へ

サイトマップへ

© 2010 Kouji Takabatake All rights reserved.
inserted by FC2 system