高畑耕治詩集『愛(かな)


あい愛


  1


風にふくらんでゆく少女の
ゆめと胸にあこがれ
真っ赤なあさひを追いかけて
靴音だけをたかく鳴らし
ひとり 旅をした
どこにもたどりつけない憧れは
きえてしまった

どこかに落とした
あの恋を思いだそう
忘れてしまったあの声をとりもどそうと
まっ赤なゆうひをおんぶして
口笛だけをひくく鳴らし
ひとごみのなか 酔っぱらって
よろよろしてる
草むらの かえるにむかって
げろげろしてる

焦げついたこころは
いたい いたいと
虫歯になってからだを蝕む
穴があいたからからの胃の底から
あ いたい あ いたいとからだが泣く
憧れはからだのおくからふくらんでくるから
まっ赤なゆうひは
空にかえし
はだかであなたに歩いてゆきたい
血を流しにゆくまっ赤な嘘は捨て
流れる血の歌を
波うたせたい


  2


かじかんだくちびるをぬらすくちづけが
こちこちしたこころを
開いてゆく
舌と舌
からみあわせ 凍りついた
憧れ
あの恋
あの声を
喉おくふかく溶かしだし
猫や犬やかえるたちに負けないよう
ひとつひとつ 細胞のくちびるを開き
呼びあい求めあい 喉笛を鳴らし
しめやかな夜空に遠吠えする


 あ
  ああ ああ あ
い いい いい あ
           いい あ
                ああ
う あ う あ あう
え?
  う あ いい あ あう いい いい
おお
 お おお う ああ いい
                お おお あ う あう
( いく? ) あ い あ いい
( どこへ? )  う あ ああ ああ ああ
                        う お おお
( いく? )
あ あ ああ いい
( ふたりで? )   あ いい あ いい あいい
                            ああ ああ い
( いく )
あ い あ いい あ い

あいしてる?

 みつけたよ あなたのにおい
 かくれてたにおい

あいしてる?

 みつけたよ あなたのこえ
 しらなかったこえ

あいしてる?

 みつけたよ あなたのいろ
 なにいろでもない あなたのいろあい

あいって
なに?

あいあいなく声にみつけた
あなただけのいろあい
おんなはかなしい もれでたことばに
あふれでたかなしいあなたをいつまでも
肌で感じていたい

 ひとはかなしい

あかちゃんをうむのはやめようね

 あなたはみんなをあいしてる?

生まれないこどもの名は

 だれでもあいせるの? もう

愛にしよう

 だれもあいさないの?

愛と書いて

 あいせないの?

かなって呼ぼうよ

あいするきもちと
かなしいきもちは
交わりあい
ひきさけない


  3


だからあかちゃんのようにあかく頬をふくらませた
あなたのねいきを子守唄に
やわらかな胸にねむりたい

 この胸の鼓動 なんていってるか
 聞こえる? ほら
 すきすきすきすきって

やすらかにおやすみ
ぼくのいびきがひびくまえに
きみのねいきがぼくは好き
寝顔をみたら
あたたかな胸のなみにゆられしずかに
あなたにしずんでゆきたい
ぼくはもうこのまま

めざめないことを祈り
ふたたび生まれないことをねがいながら
ねむりに落ちてゆき 最後の
ゆめに生まれる

 こころがきえるってこわくない?

もう生まれたくない

愛とは束縛しないこと
っていったひとは誰だっけ

 こころがきらいなの?
 わたしもう一度

リルケだっけ

 わたしに生まれたい

ぼくのゆめにはだかであらわれたあなたを
好きだったように
あなたのゆめにはだかであらわれたぼくなら
あいせるかもしれない あなたを

あいしてる

ぼくのゆめに生まれた あい
あなたのゆめに生まれた 愛
きえてゆくゆめにめざめ
めぐりあえたら
もう一度えいえんの
愛をさがそう



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