高畑耕治詩集『海にゆれる』


かえるの子守唄

あかちゃんが生めない
でもなげくのはおよしなさい
交尾するふたりにまわりの世界はしずまってゆくから
よっつのくろい瞳はまるいきんの波にゆれているから
あかちゃんの泣き声がききたいと
もう泣くのはおよしなさい
なにもつらくない ほら
今日もあんなにかえるが泣いている
( 雨の音がきこえるばかり )

あなたはたんぼで生まれたの
かえるの声につつまれ 稲の子どものおしゃべりをきき
あなたとわたしはねむったの
かえるの声とまじりながらふる雨にあめんぼはぬれ
あたりいちめん稲の子ども みどりにゆらめいていて
あなたもおなかでおどったの
( ぴくぴくとけいれんしていただけなんだ )

あんまりいたくて死ぬかと思った
あしをひろげ わたしはかえるだなと思った
くるしみがおわったときいっせいに
かえるたちのかん声が
耳に流れ込んだ
あなたのはじめての声はかえるたちの声と
ひびきあった だから
お泣きなさい かえるといっしょに
( こころのむし歯をぬいてください )

いたいのいたいのとんでゆけ
なんていわない
あなたはかえる
つらいときは泣けばいい
はいつくばって うめき声をあげなさい
きっとだれかの うぶ声とこだまする

おそれてはいけない
とべないならはねればいい
コンクリートにぺちゃんこに
おしつぶされてたとえ日干しになろうとも
あなたのからだとたましいは ちりぢりに
風にかえるから たんぼに
とんでゆくから
雨にうたれあめんぼにあいにゆきなさい
泣きながらぴちゃぴちゃはねてゆきなさい



「 かえるの子守唄 」( 了 )

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