高畑耕治詩集『海にゆれる』


海女

海と肌をかさねあわせ 潮のような
しわをきざんだひろい乳房を
はまのたき火にあかくそめ
かじかむくちびるを
はまぐりのように
ほそくひらき
ほほえんだ
海女

 海は地獄
 息ができん

あらしに破れ なぎさに
うちあげられた 小舟に
あみでしばられていた
なきがら
なげだされ 息をなくした
なかまのからだを
すくいあげ
土へ
まつひとのいるまちへ
かえしてやろう
かえりたい
みえない港へさけぶ声は
風に
かきけされ

 溺れたひとを生きかえらせるんは
 わらをたいた火と
 おんなの肌なん

潮風にいたみ泣く
板ぶき小屋に わらをたき
ひと夜
たどりついたしかばねを
抱きつづけた海女
むらさきにしずむくちびる
こごえた胸は
乳房の
ゆるやかなふくらみに
ゆるみ
うかびはじめ
くちびるに火
うすく
やわらかな息
もれはじめ

 こんどは俺のばん

酒くさいくちぐせをはき
おびえたおとこたちが小舟を
うかべる波に
もぐってゆく
さかなになりきれない
おぼれたおとこたちに
息をころし
あいにゆく海女
あわびやわかめの息が
ひろがる海に
のびてゆく
ゆび



「 海女 」( 了 )

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