高畑耕治の詩


考えるカエル
  ― 死生音楽、オタマジャクシの



二.地獄の季節


土の底ふかくやわらかな眠りのふとんに
ようやくたどり着けたかと
うつらうつらも
つかのま

いつのまにやらエンマさまの
耳をつんざく怒号の石つぶて
炎のむちにあぶられ
打ちのめされていたのです

肌に彫り刻まれた
招待ビザには

「 厭世観を助長し
 死を夢みかねない
 詩を
 まき散らした
 功徳により
 地獄行き 」と

たたえられながらわたしは
愚かにもエンマさまに

「 畏れおおいとはぞんじておりますが
 申しあげずにはおれません

 地獄行きの晴れがましい資格など
 わたくしめにはおこがましく
 ふさわしからぬごほうび
 辞退させていただきたいのです

 芸術も文学も詩も
 美
 なんの役にもたたない
 なんの意味もないかもしれない
 なんにもわからない虚しさに
 たちつくしふるえるばかりの
 いのちの
 おののき
 闇にかきけされそうな
 ともしびの
 ゆらめき

 いさましくカッコよい
 石つぶて好き
 みずからを役だつ有用な力あるものと
 ご満悦になれる
 考えないカエルに
 美はにあいません

 美しい
 ただそのことだけでわけもなく
 感動してしまう純な
 こころがないのに
 虚栄と虚飾で
 美を
 穢さないでください 」

わたしは無謀にも
カエルであることありのままの
実存をさらけだしてしまい

「 いいカエルほど
 ほかのカエルほかの生きもの思いやる
 優しいこころのカエルほど
 傷つけられ
 いのち奪われてしまう
 だれがなんのためにこんな
 苦しみ悲しみを
 あたえてくださるのでしょうか

 わたしは考え感じるカエルにすぎないけれど
 それがエンマさまだかかみさまだか
 あなたのしわざならわたしは
 ゆるせないのです
 ゆるしてくださいもう
 おどさないでください
 こわくてたまらないのです
 おねがいですからもう
 いじめないでください
 かんべんしてください

 あの蓮の根にしがみつき離しませんから
 わたしの血と肉と魂となにもかも
 八つ裂きにしてこまごまとかみ砕き
 吸いつくし吸いあげ
 愛するあのひとの
 天上の花の
 肥やしとしてくださいまし

 踏みにじられようが
 侮蔑され叩きのめされ
 突き落とされようが
 どのような姿に変えられようが
 かたちさえなくされようが
 わたしはあのひとのところへ
 西方へ
 浄土へ
 向かわずにはおれません 」

おびえふるえ
あまりに泣きわめきすぎてあたりは
涙の海
波にのまれ
渦潮にもみくちゃにもてあそばれながらもわたしは
カエル
どこへやら
ぷかぷか

エンマかみさまは潮水の底
炎はきえ目をしょぼつかせもうとおく
かすんだ濁点
サヨウナラ

ぷくぷくうつうつ
浮かび沈みわたし
流されてゆきます

かえりたい
かえろう
かえるかえる

けれどどこへ
ゆけるのでしょう

至高〈低〉の聖〈悪〉なる存在に
たてついた愚かなわたしが
ゆるされるはずもなく見舞われた
地上の出来ごとにもたとえられるほどの
むごたらしくおぞましいてんまつにつきましては
ご想像におまかせします




* ルビ 穢さない: けがさない



「 考えるカエル 二.地獄の季節 」( 了 )

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