高畑耕治の詩


逆行。未来への、



  道なりに


あの線路したのトンネルから
こちらから行ってみよう
ふと思った
きっとあのあたりにでるはず
まさか迷うなんて思わなかった
どこを歩いているのか
どこにいるのかわからなくなった
道なりに導かれゆけばゆくほど

ひと影も消えた



  悪夢の時代へ


やがて道の行方に
微かに見えはじめた輝き

未来都市
そびえたつ原発摩天楼
ならびたつ防衛装備生産設備
監獄に似た窓も表情もない
防弾壁に囲われ要塞のように

動悸が高まり
頭痛と目眩に意識を失くしながら

あああの都市はみんな

悪夢の時代の
ホログラフィー

福島原発爆発のがれき
チェルノブイリの石棺の

戦艦大和特攻零戦
人間魚雷回天人間滑空爆弾機桜花
玉砕強制自爆マシン量産ラインの

七〇年前の
東京の大阪の
列島のあちらこちらの都市の
広島の長崎の
沖縄の
家屋も人間もこころも
焼きつくされ虐殺されたあの
焼け野原の

虚言厚化粧で
焼き直され美化された
大日本帝國ゾンビの
ホログラフィー



  戦死者談話


声が聞こえた

南の海で殺された
祖父の

朝鮮半島
中国大陸
東南アジア
太平洋南洋諸島
美しい緑と海と島を
生活するひとたちを
穢し壊し苦しめ殺した
虚偽と欺瞞の
大東亜共栄圏

大日本帝國軍部と為政者が
侵略と虐殺を命じ
日本の兵隊が
罪ない多くのひとを殺してしまい
罪なく殺された

英霊
解放
美称偽称し罪をごまかすな

過ちを犯した者は
散らばり眠る人間の骨に
さまよう魂に
謝罪しつづけろ
許されることはけしてない
帝國もろとも暗黒汚点の過去に
縛られつづけ
滅びろ

過ちは消せない
殺されたひとの
想いは消えない

声が聞こえた



  足跡を


雨粒に打たれ目が覚めた
咽喉が痛み悪寒がする
ゆっくり立ち上がり
歩き出した

どこにいるのかわからない
けどここはだめだ

舗装され誘導される道の行方
嘘しかないから

いやだ

こころの声のままやみくもに
ガードレールをまたぎ
越えた

突然背後から
そちらに行かないでくださいと
呼び止める声
無視した
腕をつかもうとする
振り払い
歩き出した

どこへ?

強制誘導制度暴力に
逆行して
あの悪夢の時代の
二度と現れない方角へ
おぞましいゾンビを消しさる
目のくらむ光の源へ
逆光を正面から浴び
逆流して

歩き出して気づいた
あのガードレールを
越え
すり抜け
かい潜り
ひとり
またひとり
制止を振り払い
暗黒帝國への回帰を拒絶し
望む方角を
隠され見失っていた自由を
探し意思し
歩きはじめている

道は与えられるものじゃない
選んでつくっていくものだ

未来は
アウシュビッツへの強制された
収容貨物列車じゃない
選んで生きる足跡だ

磁石の針はでたらめに首をふり
正しい方角なんてなくても

こころのこだまに導かれ
ひとらしく
歩んで行きたい方角へ
ひととして
歩んで生きたい
ひとりひとり
いま
踏み出している

ひとりじゃない

足跡が生まれる
足跡だけが
ひとを結ぶ
道を生む




* ルビ 石棺: せっかん。桜花: おうか。



「 逆行。未来への、 」( 了 )

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