高畑耕治『死と生の交わり』


交わり ひとりであること

(4)


<精神>と呼ばれるものも
<意志>と呼ばれるものも
<良心>と呼ばれるものも <神>と呼ばれるものも
 信じることができず
 信じようとせず
 自分のうちに確かめようとせず
逃げまわる わたしが

わたしへの疑いにすかして <人間>を
疑いのまなざしのうちにかげらせ 見失い 抽象の国へ吐き棄て
どうにもならないどうにもならないとわたしを強迫的におおいつくす影の下で
どうでもいいどうでもいいとつぶやきつづけて
すべてから遠ざかり
死んだふりをしながら
自嘲し 自虐を貪り 自慰に溺れ
屍のように横たえ
ひんじゃくな欲望の猿になってわめく自分を
嘲笑している わたしが

それでも
こんなわたしであることだけがわたしにたいしてわたしではないひとびとやいきものにたいしてわたしのできるせいいっぱいせいじつでしんけんないきかたなんだと
わたしに言いきかせ
何もささえはないけれど
わたしがわたしのささえになれるなんて信じられないけれど
それでも
わたしはけつだんしてきたうたがいながらもわたしがけつだんしてきた そして わたしのけつだんがうたがわしいものでもそのうたがわしさのままにわたしはけつだんし うたがわしさをすべてのわざわいとあやまちとつみをひきうけると
おののきふるえながら
わたしに言いきかせ

わたしが決断するとき

わたしが交わった あなたが
わたしのうちに生きつづけている あなたが
わたしを励ましてくれる
わたしの決断のうちに
わたしがわたしと交わるうちに
あなたが いる

わたしが交わった あなたを
わたしのうちに生きつづけている あなたを
殺さないよう
殺してしまわぬよう
わたしは 決断する
殺さぬために
殺してしまわぬために
わたしが 決断する

わたしがわたしをみつめるとき
あなたがみつめていてくれる
わたしは 決断して生きていく
あなたを響かせて



「 交わり―ひとりであること ( 4 ) 」( 了 )

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