祖母達 死んだ女達の
せきとめられた命のしずくが
珠のようにころがって
生に至る宇宙の細い管を通り
女達の傷ついた白い腕が
花園のようにゆれる繊毛に運ばれて
わたしの夢の卵子は生まれた
あなたの夢の精子
空洞をかかえた腹より寒い所
祖父達 死んだ男達の
凍った二つの眼球
宇宙の相反する孤独な球体から生まれた
あなたの夢の精子
と合体したくて
苦しく むつびあう
遠い記憶の血が流れた
あなたの夢の精子に
長い長い尾がついている
男の神話が始まってからの
崩れなかった今もいるぬえの
その尾は裂く刃物
肉体だけでなく 存在としてのわたしを
あなたの言葉は
私の唇をふさいだ
わたしもあなたの言葉を使った
あなたには分からなかったから
けれど
言葉にならない悲鳴が
暗い海のようにあふれた
アイヌ語のように 先住民族の言葉のように
ひそかな声だけに追いつめられて
わたしも忘れた
もっと深い生命の森の闇の声
ひからびた卵子 ひからびた地球
血を流すことも忘れて
私達が生んでしまったのは
おびただしい死児達
針金の手足で
夜の中を這いずり回る子供達
始源の祖母達の雨を祈る声が聞きたい
宇宙の生命の泉に感応する声が聞きたい
あなたの夢の精子に
雨を降らせるため
ぬれて光る新芽の細胞のような
夢の受胎を求めるために
私達は 海の新しい鼓動のように
まだかすかに波立つ
友人の死 公判記事
プルトニウム 死の影が行き来する戦艦
腹部をとばされた子供の映像
苦しめ合った
触れられれば血の泡がでる傷
白い闇の凪の日常の下
海底深く火がゆらめく
ビラをまいて
インクのにおいがしていた
二人の手
二人の夢を
すきまなく重ね合おうと
あなたは私を青い波でゆさぶり
存在の芯をとかそうと
熱い言葉を注ぐ
けれど ついにかさならなかった
二人の孤独 届かなかった夢
私達がまこうとした幼い言葉は
駅のターミナルビルの
せわしない靴達に
ほこりより軽く踏まれて
どこへ行った
私達がつかえつかえ語りかけた言葉は
さびしいテレビの
最新のカードの宣伝に
つぶやきより小さくかき消されて
どこへ行った
私達の体内深く宿せなかった夢
生きる肉体として生み出せなかった夢
傷つけ合って 流した血の海にうかぶ問
男と女の問 人間の問
その引きずり出した問だけが遠い灯
私達はかすかにふるえ合う
私達はまだ夢に波立てるか
私達はまだ苦しみ合えるか
私達はまだ愛し合えるか
荒れてよ 黒い夢の波
世界をめぐれよ スカイブルーの夢の波
人間の海底に飛び込む
ひらかれた真珠のような魂を捜す
貝のからだの中の異常分泌物
水のニンフの手に守られて
ゆがみをおびて光る
白い肉の柔らかさに似て
太古の闇の吸虫を核として
虚無の砂粒を核として
海にとけた死を
死んだものの思いを
まとって
一つの生に向かって
ふくらむ
ケシ粒ほどの たった一つの
魂のダイバー
もっとも深い海底に
もっとも美しい貝が隠されている
言葉で
殻をあけ合うまでの
苦しく長い潜水
地球の酸素がなくなるまでに
世界の魂と魂が出会うことができるか
もっとも傷ついたものの魂を
息苦しいまでに捜したい
そこに見知らぬ輝きがあるから
地球は
宇宙の海のたった一つの魂
宇宙の異常分泌物
ブルー・パール
その新しい輝きを
捜している人が
はるかにいる