詩人 山下佳恵

「記念の日」初出『潮流詩派』一八三号(潮流出版社)、
「いい子だよ」初出『潮流詩派』一八五号、
「悩み」初出『潮流詩派』一八六号。


記念の日


あなたが生まれた瞬間から
大切な日に変わったふつうの日
はじめて二人で力を合わせた記念の日
生まれるために生きていくために

ぼんやりしていた目が次第にあうようになった日
動くものを追えるようになった日
声をたてて笑った日
寝かえりができるようになった日
おすわりができるようになった日
這い這いができるようになった日
つかまりだちができるようになった日
つたえ歩きができるようになった日
一人で立つことができるようになった日
ふみだしていく 一歩 二歩 三歩
一人でできていく記念の日は
どんどん どんどん増えていく
でもわすれないで一番大切な日
あなたの誕生日は
一人から二人にわかれた日
二人でしかできないもの
決してあなたは一人で生まれてきたのではない
一人で立っていることに疲れた日
つまずいて転んでしまった日に
どうか思い出して
生きていくために生きぬいていくために


いい子だよ


何をしてもかわいい存在の赤ちゃんから
たちあがり
一歩二歩ふみだしてくると
自分というものが出てきて
お母さんのもとから一人だちしようとしはじめる
食べようといってもイヤイヤ
帰ろうと言ってもイヤイヤ
イヤイヤ イヤイヤ
何をやってもイヤイヤの時代
その子の個性があらわれてくる
すぐ泣く子
がんこな子
せっかちな子
おっとりした子
どの子もどんな子も
自分のやりたいことや
心に思っていることを
表現することが違うけど
心の中ではやさしい手を待っている
愛されたい 愛したい
きっといくつになっても変わらない
悪い子でも 良い子でも
あるがまま
そのまま全部うけとめて
いい子だよ
いい子だよ
きっと あなたは
いい子だよ


悩み


お母さんになった以上切り離せないもの
子供に対する悩み
赤ちゃん時代の
ミルクを飲まない 飲みすぎる
ごはんを食べない 食べすぎる
やせている ふとっている
そんな悩みから始まって
集団生活が始まると
すぐ泣く 怒る かみつく たたく
友達と仲よくなれない ゲームばかりしている
学校生活になれば
勉強ができない 友達とけんかした
いじめられた いじめた
そして思春期の悩み
社会に出れば
仕事に対する悩み 仕事場の人間関係
異性とつきあう つきあわない
結婚すればした悩み
結婚しなければしない悩み

単純な悩みから複雑な悩みに
子供が生まれた以上
親である以上
悩みはつきない
きっと死ぬまで心配するのだろう
いま真剣になやんでいても
時間がたてば
あんなことで悩んでいたって きっと笑える
自分のこと以上に悩めるってきっとすばらしい
喜びも 悲しみも
怒りも 哀しみも
きっと子供が生まれたことによるプレゼント



著者 山下佳恵(やました よしえ)
千葉県出身、詩誌『潮流詩派』に1993年から参加。
詩集
『 四つ葉のクローバー 』(2011年、潮流出版社)。
『 海の熟語 』(2013年、潮流出版社)。
参加アンソロジー
『現代植物詩集』(1993年、潮流出版社・村田正夫編)『現代季節詩集』(1994年、以下同上) 『戦後50年詩選』(1995年)『現代旅情詩集』(1996年)『現代平和詩集』(1997年)『2000年詩集』(2000年) 『日本現代詩選第36集』(2013年、日本詩人クラブ)『詩と思想詩人集2013』(土曜美術社出版販売) 『アンソロジー花音2013』(歩行社)『詩と思想詩人集2014』などに参加。
所属 日本詩人クラブ、潮流詩派の会。

掲載されている詩の著作権は、詩の作者に属します。

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